老化時計は調整できる!

老化と死が進化に果たしている役割は確かに重要ではあるが、その一方で、人間がその役割の進行を少しでも延期したいと願ったとしても不思議ではない。それは、人間の当然の願望として許されるだろう。幸運なことに、老化のプロセスがどのようにして進行するのかを理解することで、調整をスタートさせることができる。さらに、その「老化時計」が調整可能であることを示す証拠か次々に明らかになってきた。

思春期に達する速度が人によって異なるように、老化の速度も人によってさまざまである。世の中には、特別な理由もないのに、他の人よりもゆっくりと年をとっている人がいる。反対に、病気によって老化の速度を速めている人もいる。たとえば、ダウン症候群の患者は、平均寿命がわずか三十五年ほどである。彼らは、その速い老化速度のために、若くして寿命が尽きている。 二十代後半あたりから脱毛、痴呆、関節炎といった老化特有の徴候を見せはじめている。

逆に、何らかの理由で視力を失っている人は、ゆっくりと年をとり、長生きをする傾向があることも判明している。食事量の制限もまた、寿命の延長に貢献している。研究者は、ハツカネズミに厳しい食事制限をすることで、それらの寿命を二倍近くも延ばすことができた。

過去十年間に、研究者は、松果体とメラトニンが右のような現象や、その他のまったく無関係な肉体現象の共通の分母であることを発見してきた。それで私たちは、「松果体は、老化をコントロールしている生物時計であり、その腺が毎日分泌するメラトニンは、人体のあらゆる器官、組織、細胞の基本的な生命のリズムを決定しているらしい」ということを知った。

メラトニンにはまた、睡眠と覚醒の周期や、思春期の始まりなど、さまざまな生物的なリズムを調整する働きがあることも判明している。

メラトニンと老化のプロセスの密接な関係を証明する実験結果によって、多くの研究者は右の結論を支持している。メラトニンには心臓病や更年期障害、記憶喪失や不眠症など、老化にともなう肉体的変化から人間を守る働きがあることが、すでに証明されている。

老化とは単に人間の進化の産物に過ぎない

老化のプロセスは進化の産物である。それは、乾いた大地で生きる能力と同じように、人間が進化の過程で身につけたものと考えられる。だが、このことは、いまのあなたにはピンと来ないかもしれない。年をとることが進化とどう結びつくのか?老化にどんな利点があるというのか?という疑問が湧いてくるだろう。

個人的な観点からすれば、あまり利点はない。しかし、種全体から考えれば、老化と死は、一つの世代と次の世代との間の資源(食べ物、水、住居、その他の資源)の奪い合いを制限するこ 卜とで、進化に大きく貢献していることになる。

何年か前、コロラド州知事のリチャード・ラムは、「高齢者たちには、死んで次の世代の人々に道を譲る責任がある」と発言して非難の矢面に立たされたことがある。その発言は、政治的に は大きな誤りだが、生物学的には理に適ったものである。進化の観点に立てば、一つの世代の役割は、次の世代が性的に成熟した時点で終了することになる。

何人かの研究者は、同じ趣旨のことを刺激の少ない言いまわしで主張している。彼らは、「一定の安定した人口の中では、誕生率と死亡率が常に一致していることが望ましい」と語った。その見解は、「古い世代の人々の死ぬのが早ければ早いほど、新しい世代の人が早く誕生し、それが人類全体の進化の速度を速めることになる」という結論につながっている。その意味では、人類は、他のもっと短命な生き物よりも進化の速度が遅いといえるかもしれない。

たとえば昆虫は、誕生して数週間あるいは数日もすれば死んでしまう。その速やかな世代交代は、昆虫を進化の理想的な実験動物にしているだけでなく、彼らの進化を早めることで、種としての生存に大きく貢献している。事実、有機殺虫剤が登場してからわずか五十数年のうちに、それによって絶滅しているはずの昆虫が耐性のある生命体へと確実に進化している。

老化がコントロール可能であることを示唆する数々の事実

私たちはまた、「老化はコントロール不可能なプロセスではないかもしれない」と考えるようにになった。その理由について、これから述べようと思う。

多くの生命体は、ほとんど不死身である。人体の細胞とは違い、アメーパやバクテリアといった単細胞生命体は、一般的な観点から言えば、決して死ぬことがない。それらは、高熱や特殊な放射エネルギーにさらされたり、他の生物に食べられたりして消滅しないかぎり、自分たちの遺伝的コピーを作り、自らを再生することで永遠に生きつづけている。

しかし、もっと複雑な生命体の内部では、そのシステムに違いがある。たとえば、人体の細胞は単細胞生命体と同じように再生してはいるが、その回数に明らかな限界がある。私たちは、
「人体の細胞を実験室内で培養すると、約五十回の分裂を繰り返した後、死にいたる」という事実を認識している。この限界は、最初にこの限界を発見した生物学者の名前にちなみ、「ヘイフリック限界」と名づけられている。高年齢の人の細胞は、当然この限界に到達することになる。

この代謝性時限爆弾は、単純で原始的な生命体の中では発見されていない。複雑な多細胞生命体だけがもつ性質である。その事実は、老化のプロセスが、生命体の複雑化の過程で進化したものであることを示唆している(ヘイフリック限界に左右されない唯一の人体細胞、つまり、培養液中で無限に再生と成長を続けることのできる人体細胞は、ガン細胞だけである)。

さらに、「進化した生命体は著しく異なった寿命の長さをもつ」という事実がある。カリフォルニア州にある「メシューゼラ」(「旧約聖書」創世記第五節第二十七章で九百六十九歳まで生きたとされているユダヤ族長の名)と名づけられた松の木は、すでに四千七百歳にもなっている。人間の平均寿命の五十倍を超えていて、しかも、いまだに生殖能力がある。白ハツカネズミ(遺伝子構造が人間とよく似ているために実験に多用されている)の平均寿命は二、三年に過ぎない。人間に最も近い動物だとされているチンパンジーの平均寿命は、人間の半分以下である。

しかし、同じ生命体同士の老化のプロセスは、驚くほど酷似している。私たちは、ときどき路上を歩く「アンティーク(古代人)を見ることがある。だが、それらの最も長生きしている人 の年齢もせいぜい百二十歳{平均寿命の一・五倍程度)止まりだろう(自動車にたとえれば、一九七〇年製といったところか)。

カーニバルなどで出店を張っている予言者は人々の年齢を言い当てることで小銭を稼いでいるが、彼らがその商売を続けられるのは、人間の老化レベルを示す肉体的徴候が、共通のスヶジュールに従って発生しているからである。そのような「芸」に関しては、アマチュアである普通の人でも、ほとんどの人の年齢を五歳程度の許容範囲で言い当てることができるではないか。

以上の観察結果のすべてが、「老化は、毎日の悲運の石つぶてや矢弾の雨の影響で進むものではない」ことを示唆している。言い換えるなら、「老化は、内部の生物学的な時計によってコントロールされている」ことになる。それにもかかわらず、老化にともなう病気の予防法と治療法のほとんどは、「外部の要素をコントロールする」ことに限定され、原因にではなく対症療法に終始しているのが現状である。

老化ははたして避けられないものなのか

老化は、片道切符で一方通行のプロセスだといわれてきた。肉体は自動車と同じように、利用するたびに擦り減っていくのは避けられないと思われてきた。自動車は、走行距離が二〇万キロほどになると、あちこちのパーツやシステムが不調を訴えはじめ、まもなく、運搬用具としての機能を停止することになる。

この考え方は、理に適ったもののように思われる。事実、医師が老化による病気に施す治療法は、この思想を基盤にしている。医師は、基本的に調整、修理、交換の作業を行っている。うまく動かなくなった部分を調整し、調整ができなければ修理し、修理ができなければ交換するというシステムである。肉体に対するこのような機械的な扱いの中には、老化と死は整合性のあるシステム内での欠陥が露圼したものだという思想が含まれている。

しかし、私たちはかなり前からその考え方は妥当なものではないと気づいている。肉体は機械ではない。肉体は、ただ擦り切れるばかりではない。人間の肉体は、毎日古い細胞を新しい細胞と交換することで再生している。交換されることがないのは、脳細胞と歯の表面の細胞、女性の卵子だけである。

細胞に関する基礎研究は、老化に関して新しい見解を提案している。それは、「老化は、肉体というシステム内の欠陥によって発生するものではなく、それ自体がシステムである」という見解である。

老化のカギを握るメラトニン

さらに、メラトニンの抗酸化力の発見は、老化に関する新しい考え方を誘発した。研究者は以前から、いま紹介したような病気が老化のプロセスと結びついていることを認識していたが、その理由は明らかではなかった。しかし、現在では多くの研究者が、細胞損傷を抑制するメラトニンの働きについての理解を深めており、それに基づいた新しい見解をもつようになった。

彼らは、「老化にともなう健康問題のほとんどは、メラトニン分泌量の減少によって引き起こされたもの」と考えている。松果体が分泌するメラトニンの量は、人間が年を重ねるごとに減少する。ということは、人間の肉体は、年をとるごとに酸化に対する抵抗力を減退させていることになる。

したがって、メラトニンは、人間の「老化時計」をコントロールしているらしいと考えられた。そうだとしたら、私たちは、メラトニンの利用の仕方によって老化の進行を遅らせることができることになる。

これは、もはや空想の域を大きく脱した思考である。すでに動物実験によって、血液中のメラトニン・レベルと老化現象との間の密接な関係が証明されている。それらの実験は、動物のメラトニン分泌量を操作することで老化プロセスに影響を与え、彼らの寿命を延ばすことが可能になったことを明らかにしている。

実験に携わった研究者は、松果体の移植で実験動物の寿命を二五パーセントも延ばすことに成功した。それは、人間に換算した場合、百歳あるいはそれ以上に匹敵する年齡である。それがあなただとしたら、百歳の誕生日まで、素晴らしい健康と活力が維持できることになる。

以後の文で、それらを含めた実験結果と、メラトニンが人間の成長と老化防止に果たしている役割について最新の研究結果を紹介しよう。それによって、メラトニンの広範囲にわたる効果と能力を知ることになるだろう。それは、次のとおりである。

・天然の安全な睡眠薬

・月経前症状を緩和する。

・免疫系統を刺激し、感染症にかかる確率を減少させる。

・卒中、動脈硬化症、記憶喪失症、その他の老化に関連したさまざまな病気の予防と治療効果

・抗ガン作用

・アルッハイマー性痴呆症、自閉症、その他の精神的障害の予防と治療に効果がある。

さらに、あなたがこれらの効果と能力を現実の人生の中で利用できるよう、実践可能な経済的な方法を紹介するつもりである。そこで、まず最初に、メラトニンに関するこれまでの研究が導き出した「老化に関する革命的な考え方」に目を向ける必要がある。

隠された「青春の泉」=松果体の驚くべぎ機能

 

この世に「青春の泉」が本当に存在するなら、それはおそらく、あなたの両耳を結んだ線上の中間点に存在しているはずである。つまり、頭脳の中心部にである。その場所には、「松果体」と呼ばれる小さな円錐形の腺がある。厳密な意味では泉とはいえな いが、ホルモンを分泌する器官である。

分泌されるホルモンは、「メラトニン」と名づけられている。だが、その分泌量は測定が不可能なほどわずかである。分泌量は少なくても、そのホルモンの研究が進むにつれて、それが肉体の最も基本的な機能に大きな影響を及ぼしていることがわかった。そのため、メラトニンは、人体が分泌する最もパワフルなホルモンとして注目されるにいたった。

松果体は、神経経路を通じて目と直接結びついており、暗闇になるとメラトニンを分泌する。メラトニンは、肉体の基本的なリズムを調整する作用をもつホルモンである。初期の研究では、 主として旅行者やシフト・ワーカーを悩ませていた睡眠サイクルの問題に焦点が当てられていた。

しかし、研究が進むにつれて、それが人体に与えている長期的影響が明らかになった。研究者はいま、メラトニンを、まったく関連のなさそうな病気の治療に利用できるかもしれないと考えはじめている。その理由は、次のとおりである。

一般的に、細胞が最も破壊されるのは、「酸化」と呼ばれる化学反応によってである。日常生活では、鉄が腐食し、ペンキが色あせ、オイルが悪臭を放つといった現象として現れるが、細胞レベルでは、細胞の複雑で繊細な化学構造を破壊する。

その種の化学的攻撃は、皮膚のシワから心臓病にいたるさまざまな健康問題にかかわる厄介なものである。しかもその反応は、細胞のDNAに損傷を与えることで、健康な細胞を最もたちの 悪い細胞に変化させ、ガンを発生させるという悪さをする。こういった病気の予防や治療に大きく貢献する可能性を秘めているのがメラトニンであり、これまでに発見された最も強力な「抗酸化剤」の一つといえる。

メラトニンが細胞内に存在することで、酸化による化学的損傷の発生が抑制される。細胞の酸化を防ぐことは、高血圧や心臓病につながる血管内の変化を抑制したり、特定のガンの発生確率を減少させることに大きく貢献する。事実、メラトニンの乳ガン抑制効果を検証する臨床試験がすでに開始されている。

人間の寿命をつかさどる?光と闇のパターン

かつて、スペインの探検家、ポンセ・デ・レオンは大勢の仲間や部下を引き連れて、「新世界」にあると伝えられた「青春の泉」の捜索を始めた。苦難の末に彼らが発見したものは、一面に生え繁った植物の群落だけだった。彼らは、その土地をフロリダと名づけた。永遠の若さの探検に失敗したポンセ・デ・レオンは、失望とともにスペインに戻り、そこで年老いて世を去った。

彼は、老化の神秘に深く思いを巡らせた(あるいは、方法を探し求めた)最初の人間でも最後の人間でもなかった。世の中には掃いて捨てるほどある話である。「創世記」の最初の章にもあるように、人々は天地創造のころから、「人間はなぜ老い、死んでいくのか」ということを理解し、克服しようと努めてきた。

この世界のあらゆる文化圏の民間伝承は、長寿や健康のための薬や処方箋で満ち溢れている。東ヨーロッパのコーカサス地方には、ヨーグルトと山羊のチーズの延命効果を讃える伝説が残っている。秦の始皇帝は、「不老長寿の妙薬」の到着を待ちあぐねて老衰した。インドではヨギたちが瞑想に励み、自らの小水まで飲んでいる。アメリカでも、さまざまな複合運動からクリスタルまであらゆる方法が試みられている。

十九世紀以降、無数の人々がポンセ・デ・レオンが探検してまわった大地への移動を繰り返してきた。フロリダの暖かい日差しが人間の健康を増進し、自然の時計の進行速度を遅らせてくれ るかもしれないという期待を抱いてのことである。

毎年恒例の大移動は、単なるバケーションやリゾート広告につられてのことだろうか?その背後にあるのは、もっと奥の深い本能的な衝動だろうか?

この考え方は、決して的外れなものではない。なぜなら、研究者は日光と闇のバターンが人間の健康に影響を及ぼしていることを発見している。最新の研究は、毎日の日光のサイクルが、動物の基本的な生物リズム(バイオリズム)を調整していることを突き止めている。その結果、烏は秋になると落ち着かなくなり、春になると繁殖活動に精を出す。そのサイクルは、人間の生物リズムにも同じように影響を及ぼしている。

現在、世界中の大学や政府関連施設で研究活動に従事している研究者によって、光と闇のパターン(および、それに対する肉体の化学反応)の研究が進められている。やがては、老化の真 相が明らかになるだろう。